2024年1月1日に発生した能登半島地震は、能登半島の地形に大きな変化をもたらしました。この地震は、太古から繰り返される地殻変動のパターンと一致しているように思われます。
復興支援ツアーのガイドをしていると、あちこちで「能登半島地震がもたらした地形の変化」を目の当たりにします。これらの光景の背景には何があり、どのようにつながっているのでしょうか。私は地質学者でも研究者でもありませんが、能登半島地震に関する様々な研究資料や調査報告書に目を通しながら考察を重ねていくと、能登半島で太古の昔から繰り返されてきた地質変動の姿を、ふと垣間見た気がしました。
地震による地形変化の概要
能登半島地震は、半島全体に大規模で複雑な地盤変動をもたらしました:
1. 外浦(日本海側)での大規模な隆起
– 総延長約85kmにわたって海底が隆起して陸地となり、海岸線が大きく変化しました。
– 能登半島北部沿岸のほぼ全域で海底の露出が確認され「ほとんどの漁港」が干上がり、機能不全となりました。

2. 海岸線の拡大
– 珠洲市から輪島市にかけての沿岸部約50kmの範囲では陸地が約240ha増加したと言われています。
– 場所によっては海岸線が従来より200メートルも海側に広がりました。

3. 新たな地形の出現
– 隆起により海底が露出し、新たな岩礁がいくつも形成されました。
– 海岸線が150~250m程度前進して、水面下の岩礁帯が露出した場所も多く見受けられます。

4. 内浦(富山湾側)での相対的な沈降
– 外浦側の大規模な隆起に比べ、内浦側では相対的に沈降傾向が見られます。
– 内浦側は静穏域であるため、地盤沈下の影響で浸水リスクが増加している地域があります。

地形変化の地質学的背景
能登半島の地形変化は、長期的な地質変動の一部であったことが過去の資料から確認できます:
1. 長期的な隆起傾向
– 能登半島北部は過去数十万年にわたり広く隆起してきたと言われています。
– 中期更新世(約77万年前)以降の海成段丘が発達しており、長期間にわたる地盤の隆起を示していました。

2. 南北方向の傾動
– 半島は北から南に傾く地殻変動(傾動)をしながら隆起してきました。
– 北側の沿岸には切り立った崖が分布し、半島の南側は標高がなだらかに低くなっています。
3. 断層活動による隆起
– 能登半島北部の沿岸には東西に複数の活断層が存在しています。
– これらの逆断層型の断層活動により半島がせり上がるように隆起してきたと思われます。

4. 繰り返し発生する地震
– 2024年能登半島地震のような地震が太古からくりかえされており、それが現在の能登半島の山地・海岸地形の形成における主要因と考えられています。
– 今回の地震で陸化した部分は、新たな海成段丘面として地形を形成すると思われます。
地震発生のメカニズム
2024年の能登半島地震の発生には、複合的な要因が作用しています:
1. 地下の流体の影響
– 日本列島の下に沈み込むプレートから放出された水などの流体が地表に向かって上昇したと言われてます。
– この流体(推定約2900万立方メートル)が断層を滑りやすくする潤滑剤の役割を果たしています。
– 上昇してきた流体が南東に傾斜する能登半島の断層帯に入り込み、断層面の間隔を大きく広げてしまい、プレート(岩盤)が押し上げられる、逆断層運動を引き起こしました。

2. 複数の断層の連動
– さらに能登半島の西方沖から北方沖、北東沖にかけて複数の南東傾斜の逆断層が活断層として確認されています。
– これらの断層が連動して動くことで、大規模な地震が発生しました。
– 珠洲沖や輪島沖の境界付近で地震のトリガーとされた断層破壊が両側に拡がり、最終的に約100-150kmの長さを持つ震源域で断層破壊が生じました。

今後の地震リスクと地形変化の可能性
能登半島地震の発生可能性は依然として高く、今後も警戒が必要と言えます:
1. 継続する地震活動
– 2024年1月1日のM7.6の地震以降、地震活動は全体的に減少傾向にありますが、依然として活発な状態が続いています。
– 2024年6月にM6.0、11月にM6.6の地震が発生するなど、大規模な地震が引き続き起きています。

2. 海域活断層の存在
– 能登半島周辺には多くの海域活断層が存在しており、今後も規模の大きな地震が発生する可能性が高いとされています。

3. 地殻変動の継続
– 未だ地殻変動も継続しているため、地震活動は続くと予想されています。
4. 長期的な地形形成過程
– 能登半島北部の海岸には過去6000年間に少なくとも3回の大規模な隆起が確認されており、今回の地震もこの長期的な地質変動の一部と考えられています。

今後も地震活動が継続する可能性が高く、さらなる地形変化も予想されます。長期的には、今回の地震で陸化した部分が新たな海成段丘面として残り、能登半島の新たな地形の一部となると考えられます。2024年1月1日の地震は、その物語に新たな1ページを刻みました。
リブート珠洲 篠原和彦